はじめに
雪崩に埋没した仲間を探し出すアバランチビーコン(以下ビーコン)は、バックカントリーにおける「命綱」そのものです。MAMMUTの「Barryvox(バリーボックス)」シリーズは1968年の登場以来、世界中のバックカントリーユーザーに愛されてきた歴史あるモデル。その最新世代となるBarryvox S2が2024年秋にリリースされました。「より薄く、より軽く、より探しやすく」をキーワードに7年ぶりのフルモデルチェンジを果たした本機を、バックカントリーでの装着使用および仲間と行った捜索練習をもとにレビューします。
スペック

| 価格 | 71,500円(税込) |
| サイズ | 115 × 68 × 21 mm |
| 重量 | 180g(電池含まず) |
| 電池 | 単4形アルカリ電池またはリチウム電池 × 2本 |
| アンテナ数 | 3アンテナ |
| 最大捜索範囲 | 70m |
| ディスプレイ | MIP液晶(Memory-in-Pixel) |
| 接続 | Bluetooth(専用アプリ対応) |
| 発売日 | 2024年11月22日 |
開封・同梱内容
箱を開けると、ビーコン本体・ハーネス(BarryMount)・コード(BarryLeash)が同梱されています。ハーネスは胸部に固定するタイプで、一見シンプルに見えますが装着してみると安定感は十分。オレンジのアクセントカラーが視認性向上にも貢献しています。
デザイン・携帯性
手に持った瞬間、まず感じるのはそのコンパクトさです。旧モデルから22%薄く、14%軽くなったという数値は体感にも現れており、ウェアの下に装着してもほとんど気になりません。旧Barryvox Sと比べて25%小さく、このクラスの高機能ビーコンとしては群を抜いたコンパクトさです。
厚みの削減は特に恩恵が大きく、ハイクアップ中にウェアとの干渉が減り、転倒時の違和感も軽減されました。バックカントリーで長時間行動する場面では、この「装着していることを忘れる感覚」が精神的なゆとりにつながります。
ディスプレイ:MIPの実力
MIP(Memory-in-Pixel)ディスプレイは、直射日光下やサングラス着用時でも高いコントラストで視認できるのが特徴です。屋外での練習中に晴天下で確認しましたが、画面の見づらさでストレスを感じる場面はありませんでした。偏光サングラスでも問題なく読み取れる点は、実際の捜索場面で大きなアドバンテージになるはずです。
捜索性能:70mレンジとガイダンス機能
3アンテナ搭載により最大70mの捜索帯幅を維持しており、コンパクト化しても捜索性能は一切妥協していません。
実際に駐車場で友人にビーコンを隠してもらい、約50m離れた地点からの捜索練習を行いました。コースサーチ(一次捜索)から信号補足までは非常にスムーズで、距離表示の追従も自然でした。特に優れていると感じたのがインテリジェント・ファインサーチガイダンスです。高度なアルゴリズムが埋没対象者に最も近い地点を計算し、視覚と音響の両方で救助者をファインサーチへ誘導します。練習段階でもその誘導のわかりやすさは実感でき、パニック状態に陥りやすい実際の雪崩現場でも心強い機能になると思います。
また、プロービング表示機能により埋没深度を画面上で確認でき、ファインサーチから精密位置特定へのスムーズな移行をサポートします。
安全機能:レスキューSEND・干渉ガード
レスキューSEND機能により、捜索を行っていない救助者が二次雪崩に巻き込まれた際に自動で送信モードへ切り替わります。これはグループ救助の場面で、捜索担当以外のメンバーを守るうえで重要な機能です。
干渉ガード機能は電子干渉を検知し、パッシブ干渉の場合は送信強度を高め、アクティブな電子機器からの干渉を低減します。スマートフォンや無線機との同時使用が避けられない現場では、心強い機能といえます。
アプリ連携:BarryvoxアプリとBluetooth
今回初めて専用アプリケーションが導入され、ビーコントレーニング・ファームウェアアップデート・デバイス設定がアプリ一本で完結するようになりました。以前はファームウェアアップデートのためにショップ持ち込みが必要でしたが、これにより自宅やフィールドへ向かう直前にアップデートできるようになったのは大きな改善です。
アプリの完成度については、現時点では競合他社製品と比べてやや発展途上の印象もありますが、基本的な操作には支障ありません。今後のアップデートに期待したいところです。
気になった点
① ボイスガイダンスの地域制限
Barryvox S2にはボイスガイダンス機能が搭載されていますが、特許の関係からオーストリア・ドイツ・スイス・アメリカでは利用不可とされています。日本では利用可能であるため国内ユーザーには直接影響しませんが、海外遠征時には注意が必要です。
② 発売直後のリコール問題
2024年11月8日、Barryvox 2およびBarryvox S2の一部製品でメインスイッチの組み立て精度に問題があり、意図せず検索モードへ切り替わったり電源が切れたりする可能性があるとして、MAMMUTが自主回収を実施しました。これはビーコンという命に直結する製品における重大な問題です。MAMMUTは誠実に対応し検査・修理後に返送するプログラムを用意していましたが、発売から約3週間というタイミングでの回収は残念な印象を与えました。現在入手できる製品は検査済みのものであり安心して使用できますが、購入時には確認することをお勧めします。
評価
| 評価項目 | 点数 |
|---|---|
| 携帯性・コンパクトさ | ★★★★★ |
| ディスプレイの視認性 | ★★★★★ |
| 捜索性能 | ★★★★★ |
| 操作性・UI | ★★★★☆ |
| アプリ連携 | ★★★☆☆ |
| 品質・信頼性 | ★★★☆☆ |
| 総合 | ★★★★☆ |
まとめ
MAMMUT Barryvox S2は、コンパクトさと捜索性能の両立という難題を高いレベルでクリアした、現時点でトップクラスのアバランチビーコンです。MIPディスプレイの視認性、インテリジェントなファインサーチガイダンス、Bluetooth対応アプリによる利便性向上など、実際のフィールドで感じるメリットは確かなものです。
発売直後のリコール問題は購入判断に迷いを生じさせる出来事でしたが、MAMMUTの迅速な対応と、根本的な捜索性能の高さは変わりません。71,500円という価格は決して安くはありませんが、バックカントリーへ踏み込む全ての人にとって、ビーコンへの投資はそれ自体が「山から帰ってくるための保険」です。本気で山と向き合うなら、Barryvox S2は強力な選択肢となるでしょう。
